プラセンタとサイトカイン~その1
胎盤というのは、お産を取り扱う産婦人科医にとっては最もなじみの深いものです。胎盤は母体側と胎児側の代謝物質交換、ガス交換や胎児側への免疫学的支援を行い、また、ヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) 、ヒト胎盤性ラクトゲン (hPL)やプロゲステロン、エストロゲン等のステロイドホルモンを産生することによって、妊娠を維持します。
また、胎盤は細胞の増殖・再生を調整する物質「細胞増殖因子」を合成・分泌する臓器でもあります。その中で、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをサイトカインと呼びます。
私はそのサイトカインの中の一つである、LIF(Leukemia inhibitory factor)とその受容体に関する研究をしていました。LIF(Leukemia Inhibitory Factor)は、白血病細胞の増殖を阻害し、マクロファージに分化誘導する因子として発見されたのですが、他にも、神経分化、骨形成、脂肪細胞の脂質輸送、副腎皮質ホルモンの産生など、多くの機能が知られています。マウスES細胞の分化抑制作用があることや受精卵の着床に必須の因子であることも知られています。
胎盤には種々のサイトカインやその受容体が発現しています。(参考文献:胎盤とサイトカイン http://www.jsog.or.jp/PDF/52/5203-042.pdf)
そのため、そのサイトカインの活性を失うことなく分離できれば、自然治癒力や免疫力を高め、免疫システム全体のバランスを調整・回復しながら、細胞レベルでの若返りや修復が期待できることになります。
現在胎盤が医薬品(プラセンタ注射液)として販売されているものとしては、メルスモン製薬(株)から出ている「メルスモン」と(株)日本生物製剤から出ている「ラエンネック」の2種類がありますが,含まれている成分は同一ではありません。いずれもヒトの胎盤を原料としていますが製造工程に違いがあるために,最終的な組成にも違いが出てきているのです。
1)有効成分
メルスモン:
核酸関連成分(ウラシル,アデニン,グアニン,チミン,シトシン)アミノ酸(リジン,アラニン,アスパラギン酸,ロイシン,グルタミン酸,グリシン,バリン,セリン,チロシン,フェニルアラニン,スレオニン,アルギニン,プロリン,シスチン,イソロイシン,メチオニン,ヒスチジン)ミネラル(ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リン,鉄)その他(キサンチン)
ラエンネック:
諸種のサイトカイン,アミノ酸,ペプチド,核酸塩基,糖質等の水溶性成分
2)添加物
メルスモン:ベンジルアルコール
ラエンネック:ペプシン,乳糖,pH調整剤
3)加工方法
メルスモン:
HBV,HCV,HIVについて血清学的検査を実施して陰性であることが確認された健康人の胎盤を原料として,塩酸加水分解法により製造されている。ウイルス不活化を目的として製造工程において101℃以上,1時間以上の塩酸加熱処理および121℃,60分間の高圧蒸気滅菌を実施している.....
ラエンネック
原料提供者1人1人について既往歴,問診及び血清学的検査等によってウイルス・細菌の感染症等をスクリーニングし,その後HBV-DNA,HCV-RNA及びHIV-1-RNAについて核酸増幅検査(NAT)を行い適合した,国内の満期正常分娩ヒト胎盤を原料として製造されている。また,本剤の製造工程で行う121℃,20分間の高圧蒸気滅菌処理は,HIVをはじめとする各種ウイルスに対し,不活化効果を有することが確認されている。更に,製品試験においてHBV-DNA,HCV-RNA,HIV-1-RNA,HTLV-I-DNA及びパルボウイルスB19-DNAについて核酸増幅検査(NAT)を行い,適合したものである.....
4)適用疾患と用法
メルスモン:
効能 : 更年期障害、乳汁分泌不全
用法 : 通常、1日1回2mLを毎日又は隔日に皮下注射する。
ラエンネック:
効能 : 慢性肝疾患における肝機能の改善
用法 : 通常成人1日1回2mLを皮下又は筋肉内に注射する。症状により1日2~3回注射する事ができる。
以上の製品上の相違点を理解して、メルモンとラエンネックとを使い分けることが大切です。次回にプラセンタ注射の使い分けの方法について検討してみます。

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テーマ : 美容・健康・アンチエイジング
ジャンル : ヘルス・ダイエット