月経周期から考察する女性の運動への取り組み方~その1
男性と女性との性差の中で最も重要なのは妊娠、分娩、月経の有無です。妊娠を安定的に継続させて、胎児を保護するためにも、一般的に言って女性の肉体は男性に比して体脂肪が多くなっています。体脂肪が多いことは、主要な女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の維持に不可欠でもあります。
正常成熟女性の場合には毎月の月経と排卵があって、月経周期によって肉体的にも精神的にも周期的変動が訪れます。難しいのは、だからと言って月経がないほうがベターであると言う訳にはいきません。どのようにして、運動しながら月経周期と上手に付き合っていきましょうか。年齢別に考えると以下のようになります。
1)初経・高校生頃まで(思春期)
初経までにハードなトレーニングをし過ぎて著明な体重減少があると、初経や第二次性徴の遅れを伴うことになります。また女性ホルモン(卵胞ホルモン‐エストロゲン)は骨量の維持に重要な役割を担っていますので、その低下は発育不全・疲労骨折を招きかねないので注意を要します。
余談となりますが、高校生までの女性が続発性無月経で病院を訪れる理由は大きく分けて2つあります。一つは上述のハードトレーニングによる極端な体重減少によるものであり、もう一つはいわゆる拒食症(神経性食思不振症)です。いずれのケースでも極度の痩せからホルモンバランスや中枢性のホルモン調節機能が崩れて、無月経となります。治療としては2種類の女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン‐プロゲステロン)を投与するカウフマン療法が実施されます。
2)性成熟期
この時期では排卵周期となっている女性が多いのですが、その周期的変動に悩まされることがあります。まず月経痛が酷かったり、月経の量が多い場合には、子宮筋腫や子宮内膜症といった器質的疾患の合併を疑う必要があり、産婦人科受診を必要とします。病状によっては、必要に応じて手術を受けたり、ホルモン治療(偽閉経療法)等を要する場合があります。また至極当然の話ですが、無月経で嘔気・嘔吐を認める場合には、妊娠による悪阻(つわり)を考える必要があります。
排卵痛に悩まされる女性もおられます。月経と月経の間のいわゆる「中日(なかび)」に痛みや出血を認める場合には排卵痛であることが多いものです。余り酷い排卵痛に悩まされている場合には、低容量ピル(OC)を服用して排卵を抑制する必要があります。
時に月経前緊張症候群も問題となります。これはホルモンの急激な変動や月経に対する恐怖・不安感からもたらされる事が多いとされています。やはり低容量ピル(OC)の内服が有用となります。
レースの日が月経周期のどの時期にあると良い競技成績が得られるでしょうか?これは非常に難しい問題です。上述の黄体ホルモンは排卵後の高温期に分泌されますが、平滑筋の弛緩作用があるため、常時高黄体ホルモン状態である妊娠中は、便秘したり急性腎盂腎炎に罹りやすくなります。
「最新フィットネス基礎理論」に拠ると、この黄体ホルモンには遅筋線維の機能を低下させる作用があります。そうなると理論的には月経後で排卵前の時期にレースを迎えるのが望ましいと言えます。ただしそこまで月経周期を厳密にコントロールするのは不可能に近いでしょう。
最重要としているレースに月経が重なりそうな場合に、月経の時期をずらすだけなら可能です。海外旅行のために月経を遅らせたい場合と同様に、レース当日までピルを内服することで何とかなります。ただピルの種類によっては体重増加・嘔気・浮腫・便秘等を伴うことがあるので長期投与は勧められず、レースの日程と合わせて担当医の助言が必要となるでしょう。
2)更年期~老年期
この時期の問題点は、更年期症状と疲労骨折の二点となります。のぼせ等の症状がきつい場合には(腰痛等の症状は更年期障害でない場合が多いので、整形外科等の受診も要します)卵胞ホルモンのホルモン補充療法が必要となります。更年期になると卵胞ホルモンの低下からくる骨量の低下により骨粗鬆症を合併するケースがあり、その場合は疲労骨折をしやすくなります。骨粗鬆症の治療薬には多種ありますが、更年期障害もある場合には、ホルモン補充療法の併用も有用です。一般的に言って、トレーニングをしていると重力に抗しているため、骨は運動をしていない人に比して鍛えられている事が多いのですが、スイムのみでは骨は鍛えられません。
女性アスリートの場合、卵胞ホルモンの微妙なコントロールが肝心です。体脂肪が多過ぎるとアスリート的にはよくないと思われるます、卵胞ホルモンは脂肪でも産生されるため、体脂肪が少な過ぎると卵胞ホルモンの低下による月経不順(場合によっては無月経)や骨量低下を招き、易骨折性となってしまいます。そのため体脂肪率を極端に減少させる事は良くありません。シドニーオリンピックで金メダルを獲得した高橋尚子選手は、疲労骨折に見舞われましたが、あのクラスのアスリートにもなると、トレーニング過多以外に卵胞ホルモン低下の影響も推察されます。
「最新フィットネス基礎理論」に拠りますと、女性は体脂肪率が17%になると初経を迎えることが統計的に報告され、体脂肪率が17%を切ると月経異常を起こす可能性が高いとされています。体脂肪率が低い程、例えば1500m走のタイムが短くなることが統計的に証明されているようですが、月経異常や骨粗鬆症のリスクが増すため、女性の場合には、そのバランスの維持は非常に難しいものです。

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