イオン化粧品シアターBRAVA!公演「アントニーとクレオパトラ」観劇

29日には、仕事を終えて夕方になってから、イオン化粧品シアターBRAVA!公演「アントニーとクレオパトラ」観劇のために久しぶりに大阪に向かいました。

公演の舞台となった、イオン化粧品シアターBRAVA!は、翌日(30日)開催される大阪マラソン2011のスタート地点である、大阪城公園のすぐそばにあります。そのため、マラソン好きの私は、観劇に来たのに何となくレースに来たような錯覚に最初陥りました(苦笑)。
今回の舞台は、とうこさんが退団後初めてチャレンジする、蜷川監督によるシェイクスピアのストレートプレイです。シェイクスピア俳優として名高い吉田鋼太郎氏が主演の舞台を初めて観るため、今回の観劇は非常に楽しみにしていました。
以前このイオン化粧品シアターBRAVA!に来たときには、題目が小栗旬主演の作品「カリギュラ」だったためか、同じ蜷川監督の演出であっても客層の95%以上が若い女性でした。今回の舞台は客層の平均年齢が高く、男性も数多くおられました。
私の客席は前から7列目のほぼセンターで、観劇に最適の好位置でした。終演後にはとうこさんと吉田鋼太郎氏のトークショーも開催され、舞台のみならず裏話も聞けて十分楽しむことができました。
(注:以前から私の観劇レポは独断と偏見だらけです。ネタばれを嫌がる方は、私の下手な解説とは言え、読まないことをお勧めします。)

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演出の蜷川監督自身も、パンフレットの中では以下のように語っています。
<以下引用>
「ええ、「アントニーとクレオパトラ」だけではありません。ほかにもシェイクスピアの戯曲には、つまらないなあと思うものはいくつもあります。
(中略)
ただし不思議なことに、読んで少しも面白いと思えない戯曲でも、上演するとなんと魅力的で面白い戯曲なんだと思わせられるんです。この、読むことと上演することの落差にシェイクスピアの演劇の秘密があるのかもしれません。」
この点に関しては、小説家・劇作家のアルベール・カミュは、「シーシュポスの神話」に挿入されているエッセイ「不条理な人間」中の「劇」の項目で以下のように語っています。
<以下引用>
シェイクスピアを見たまえ。動きがなによりも優先するこの演劇においては、身体の激動がまずはじめにあり、すべてを導く。身体の激動がすべてを説きあかす。
<中略>
人間の身体のひろがりそのものでは不足である。仮面と、底の厚い、背を高く見せる靴、容貌をその本質的な要素へと還元して、くっきりときわだたせるメイキャップ、誇張し単純化する衣装、ー演劇というこの世界はすべてを外見に捧げ、ただ眼だけのためにつくられている。
<引用終了>
また、俳優のありかた・特性については、ハムレットの独唱を引用しつつ、以下のように語っています。
<以下引用>
ハムレットはいう、「血と判断力とが精妙に混じりあい、ために運命神の指先の動くままに操られ、その好きな音色を出す笛にはならない、まったく羨ましいひとだ」(訳注 第三幕第二場)
大切なのは、ただ、俳優が自分の演ずる人物達たちのかけがえのない生と、どれほど一体化するものか、それを知ることだけだ。実際、俳優がそれらの人物を自分といっしょに連れ歩くとか、それらの人物が自分の生まれた時間と空間を無造作に乗り超えてしまう、そんなことがよくあるのだ。
<引用終了>
主役に成り切ってしまうと、稀代のシェイクスピア役者とされた、エドマンド・キーンのように現実と舞台との境がなくなって狂人になってしまうのかもしれません。上記で解説されていたように、偉大な役者は歴史を超えてしまうものです。
正直言って現代の役者にこのような演技を望んではいませんが、今回主役のアントニーを演じた吉田鋼太郎氏の演技は、「これは殆ど地で演じているのではないのか」と見えるほど素晴らしいものでした。女好きで単純でありながら、軍人としては傑出していたアントニーの様々な側面を絶妙に演じ分けています。
他のシェイクスピアの舞台に比すればまだ少ない方かもしれませんが、あの膨大な台詞を、表情や仕草を変えながら余裕すら漂わせて消化しているように感じました。その圧倒的な存在感は、抜群の包容力もあって他の追随を許さないようにも思えました。
とうこさんも例によって絶妙の演技力を見せ、時にはコミカルに、時には妖艶に、時には威厳を持って演じ分けています。稽古の激しさのためか、一段と痩せてしまったように見えましたが、発声とトークショーで話題になった`どや顔’の威厳は素晴らしいものでした。本人が後のトークショーで語っていましたが、やはり場面に合ったようなテーマ曲(例えば、「スカーレット・ピンパーネル」の主題歌「ひとかけらの勇気」のような曲)をとうこさんには歌って欲しかったように思います。
この劇評で解説されていましたが、
<以下引用>
エジプトの落日が決定的になったとき、シーザーの援助を敢然拒絶し、アントニーと死の世界へおもむくクレオパトラの気位の高さ。
<引用終了>
ただ権力に身を委ねるだけではなく、自らの信念と愛とを貫き通したクレオパトラをとうこさんは絶妙に演じているのですが、男役時代が長かったためか、男を手玉に取って魅惑する悪女振りが余り感じられないのは残念でした。これは、私がとうこさんの過去に演じてきた悪役男性が好きだったからかもしれませんが...(苦笑)。
他の役者ではオクテヴィアスを演じた池内博之氏とイノバーバスを演じた橋本じゅん氏の演技に若さ・パワー・貫禄・奔放さを感じました。他の役者のレベルも高く、非常に見応えのある舞台でした。
講演後のトークショーでは、とうこさんと吉田鋼太郎氏のお二人が、舞台を楽しみながら和気あいあいとされている様子が伺えて興味深いものでした。
トークショーで特に印象に残ったのは、
1)とうこさんが威厳を示すためにしょっちゅう`どや顔’をしていて、それを吉田氏にからかわれたこと。
2)今までの蜷川氏の舞台の主演女優と違って、とうこさんはいつも男優陣に囲まれていたが、これは女とは見られていないのではないか、ととうこさん自身が語ったこと。
3)とうこさんは歌が大好きなので、舞台上でも歌を歌いたかった。と語ったこと。
4)後の韓国での公演は、母国への凱旋となるため非常に楽しみにしている。と語ったこと。
5)大阪は漫才・落語などの芸の本場なので、コミカルな演技の受けが東京と違って非常に良く、関西に来るとほっとする。と語ったこと。
などです。
原作を読んでもあまり魅力を感じなかったこの作品を、絶妙な配役と素晴らしい演出とによって観客を唸らせる舞台に仕上げた、蜷川監督の技量は改めて素晴らしいものだと思います。
ただ私はやはり基本的にはミュージカル系が好きなので、ストレートプレイの観劇は時々でいいかなと思っています(苦笑)。