「成長の限界 人類の選択」
人類はこれまで絶えざる「成長」を求めてきていました。その結果として「行き過ぎ」が起こり、このままでは最終的に「崩壊」してしまいます。
この作品で理想とされる未来社会は、人類が「持続可能」である社会です。それが可能か否かの分析として、「生活の豊かさ」と「エコロジカル・フットプリント」という2つの概念が導入されています。この2つはそれぞれ、広い意味で平均的な地球市民の生活の質を表わすものであり、物質的な要素と物質以外の要素、及び地球の資源基盤と生態系に対して人類が与えている環境影響の合計を示すものです。
「生活の豊かさ」は人間開発指標(HDI)として、3つの指標(寿命指標、教育指標、GDP指標)を数学的に平均したものとして計算されます。一方、エコロジカル・フットプリント」は抽象的には 「環境に対して人間がかかえている重荷」であり、数値化された「自然に対する人間の影響の総量」であり、資源の採掘や汚染の排出、エネルギーの消費、生物多様性の破壊、都市化、その他の物理的な成長の結果の影響をすべて合計したものです。具体的には、世界が必要とする資源(穀物・飼料・木材・魚及び都市部の土地)を提供し、二酸化炭素の排出を吸収するために必要な土地の面積等で示し、人類の現在の資源消費量が地球の扶養力を超えていないかの考察に用いられます。
また持続可能な限界を定義するために、3つの簡潔な規則が示されています。
1) 土壌、水、森林、魚など「再生可能な資源」の持続可能な利用の速度は、その供給源の再生速度を超えてはならない
2) 化石燃料、高品位の鉱石、化石地下水など、「再生不可能な資源」の持続可能な利用の速度は、持続可能なペースで利用する再生可能な資源へ転換する速度を超えてはならない
3) 「汚染物質」の持続可能な排出速度は、環境がそうした汚染物質を循環し、吸収し、無害化する速度を超えてはならない。
「ワールド3」コンピューター・モデルが描くシナリオにおいては、4つのモデル「成長のプロセス」、「限界」、「遅れ」、「衰退のプロセス」 が重要となり、以下の4つの行動パターンをとります。
1. 継続して成長する
2. S字型に成長する
3. 行き過ぎて振り子が振れる
4. 行き過ぎて崩壊する
この本で示された11のシナリオは、下記のようにこれから再生可能な資源が発見されたり、人口安定化策が捕えられた場合等のシミュレーションを実施しています。
シナリオ0-限界をなくせば、無限に成長する
シナリオ1-参照シミュレーション
シナリオ2-再生不可能な資源がより豊富にあった場合
シナリオ3~6-入手可能な再生可能な資源がより多い場合、特に6では汚染除去、土地の収穫率改善、土地浸食軽減、そして資源の効率改善の技術がある場合
シナリオ7~9-世界が2002年から人口を安定されるという目標を採り入れた倍、特に9では世界が2002年から人口と工業生産を安定させるという目標を採り入れ、かつ、汚染、資源、農業に関する技術を加えた場合
シナリオ10-シナリオ9の持続可能な社会をつくる政策を20年前の1982年に導入した場合
これらのシナリオは世界をシステムとして単純化しており、戦争や天災等を考慮に入れていないため、現実との乖離が想定されますが、かなり現実に近い結果を示しているデータもあります。
最後のシナリオで示されたことは、人類が20年早く持続可能な政策を実施していれば、より一層生活の質の高さを保てたというものであり、根本的な変化の着手を延ばせば延ばすほど、人類の長期的な未来に残された選択肢が減るというものです。
成長を目指していた社会が限界に突き当たり、それを行き過ぎて崩壊していく現状を見ていると絶望的な気持ちにもなります。現実の実例としてここで示された、世界の漁場の崩壊の歴史は悲惨ですらあります。
だが、著者らは一方的に悲観ばかりしているのではありません。オゾン層の破壊につながるクロロフルオロカーボン(CFC)の製造中止に向けた、各国の協調の歴史は、営利を追求する私企業の傲慢さにも拘わらず、政治的な動きで環境問題の改善が可能である一例を示してくれています。
持続可能な世界を最初に提言したのは、ジョン・スチュアート・ミルです。彼は資本と富、人口の「定常状態」が精神文化の興隆や道徳的、社会的進歩の機会を与え、生活水準の向上をさせるだろう、と述べています。
これから世界は拡大の時代から均衡の時代に変化しようとしています。これからは新たな革命が望まれます。それは持続可能性革命であり、以下の5つのツールが重要とされます。
1) ビジョンを描く。但し、行動を伴わないビジョンは役に立たない。
2) ネットワークを作る。
3) 真実を語る
4) 学ぶ
5) 慈しむ
ここに示されているツールは、水素文明的生活そのままです。水素文明の本質というのは、限られたエネルギーを浪費することなく分け合い、電脳化した集団内で集合知を形成しつつ、エネルギーや物資の無駄のない作成・収穫と適正配分・有効利用、情報の双方向伝達を図ることが目的とされ、その本質は分散化にあります。その過程で個別化による差異を生かさなくてはなりません。
水素文明の構築のためには、直接的又は間接的に真実を語りながら相互に勉強して理解を深めつつ実践していくことが大切です。
上のツールで示されていましたように、「行動を伴わないビジョンは役に立ちません」。まず自ら行動を開始していくことが大切です。