ヒトは何故長距離走をするのか~その2ー内因性麻薬であるβエンドルフィンによる「ランナーズ・ハイ」
なぜヒトは苦しい思いをしてまで長距離走をするようになるのでしょうか。一般的にはこれは、「ランナーズ・ハイ」によって多幸感を齎されることが一要因であると考えられています。それでは「ランナーズ・ハイ」を齎す主因とされる、βエンドルフィンについて今回考察を加えてみましょう。
まず、下記の文献をクリックしてみて下さい。
痛みと鎮痛の基礎知識ーPain Relief
上記の文献の中で説明されていますが、βエンドルフィンは31個のアミノ酸からなるオピオイドペプチドで、鎮痛作用のほか、快感をももたらす脳内麻薬とされています。
「ランナーズ・ハイ」に関して、‘マラソンのように長距離を走ることは苦痛を伴うものですが、走ってしばらくすると苦痛が和らぎます。これは、エンドルフィンなどの内因性オピオイドが脳下垂体や視床下部などから分泌されて苦痛を和らげるためです’と説明されています。
このオピオイドペプチドは、オピオイド受容体を発見した一人であるEric J. Simonによって、「endogenous morphine(内因性モルヒネ)」に因んでendorphinと命名されています。β-エンドルフィンは、μ受容体に作用し、モルヒネ様作用を発揮します。ストレスなどの侵害刺激により産生されて鎮痛、鎮静に働き、その効果はモルヒネの6.5倍とされています。
一方、βエンドルフィンが中脳腹側被蓋野のμ受容体に作動し、GABAニューロンを抑制することにより、中脳腹側被蓋野から出ているA10神経のドーパミン遊離を促進させ、多幸感をもたらします。
エンドルフィンは社会的安心感に関与するとされ、またエンドルフィンは母乳の生成を調節するホルモンであるプロラクチンの母体内のレベルを高めることから、授乳期間中にエンドルフィンが放出されている可能性があります。
βエンドルフィンと「ランナーズ・ハイ」
医学用検索サイトであるPub Medで「beta endorphin and runners high」を入力して検索してみますと、以下の頁となり、4つの文献が提示されます。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=beta%20endorphin%20and%20runners%20high
1つめの文献では、「ランニングによっても瞑想によっても‘ハイ’な状態は獲得できる。ただランニングの後ではbeta-endorphinと corticotropin-releasing hormone(CRH)の双方が上昇するが、瞑想の後ではCRHのみしか上昇しない。CRHの上昇こそが‘ハイ’な気分と関連していることから、‘ハイ’な気分を獲得するのに必ずしも運動及びbeta-endorphinの上昇を必要としない。瞑想のみで十分‘ハイ’な気分を獲得できる」と考察されています。
また他の文献では、「ランニングの後のハイな気分はbeta-endorphinに似た免疫反応性に関連する」、「トレッドミルでのハードなジョギングによる血中beta-endorphin、corticotropin、cortisolへの影響を検討してみると、男女の性差やトレーニング内容でcorticotropinやcortisolへの影響に差がみられなかったが、beta-endorphinは男性の方で有意に上昇が認められた」などと報告されています。
これらの情報から面白いことが推論できます。まず、βエンドルフィンの齎す‘ハイ’な気分というのは、多幸感、快楽、苦痛よりの解放などと共に、社会的安心感をももたらしますが、βエンドルフィンの上昇を伴わない「瞑想」によっても獲得が可能です。従って、麻薬の外因性投与やランニング等のハードな運動をしなくとも誰でも常時‘ハイ’な気分を得られ、仕事や趣味等に活かせるという可能性があります。
またハードなジョギングで内因性に分泌されるβエンドルフィンに関して、その濃度が女性に比して男性に於いて有意に高いと言うのは興味深いデータです。一般的に言って、女性の性交によって得られるオーガニズムは男性の性交に比して数倍高いと言われており、それは多量のβエンドルフィンの分泌に依るとされています。男性はランニング等のハードな運動を通して‘ハイ’な状態を獲得し、性交では満たされない快楽を得られるように生態学的に定められている可能性があります。

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テーマ : フィットネス・トレーニング
ジャンル : ヘルス・ダイエット