ヒトは何故長距離走をするのか~その1ー持久走により人類の進化と大脳の発達がもたらされた
今回は、何故ヒトが長距離走に魅せられてしまうのか、文献的考察を交えて検討したいと思います。
最初に紹介するのは、以下の文献です。
`Endurance running and the evolution of Homo'
Nature 432, 345-352 (18 November 2004)
「長距離走と人類の進化」
マラソンのような持久走により人類の進化がもたらされたとするものです。以下にその要点を記します。
人類の進化に関しては、四足動物から二足動物への変化として、従来から'歩く'ことが研究されてきて'走る'ことは余り関心を持たれてはいなかった。ところが、この論文では人類は'持久走或いは長距離走'をするために進化したのであり、'走る'が'歩く'の延長線上にあるのではない、と著者は種々の観点から分析している。
エネルギー効率:'歩く'際の両足の振り子運動と異なり、'走る'際には下半身のバネを用いる。その発達に寄与しているのが、人類の長いアキレス腱と足踏まずである。またこれによりストライド(歩幅)が長くなることもエネルギー効率を高めてくれる。
骨格の強靭さ:'走る'際には身体に過度のストレスが加わる。そのストレス軽減のため人類の下肢は柔軟でありまた関節面が広くなっている。また腸骨は広く、太腿骨の頚部は短くなっている。
安定性:'走る'際には体幹はより前方に傾く。体幹の安定性のために脊柱起立筋と仙骨の付着面は広く、また大殿筋が大きい。体幹を廻すのには細くて長い腰が寄与している。また上肢帯と頭部が独立しており、結合させているのは僧帽筋のみである。腕を振ることについては肩幅の広さと前腕の短ささが寄与し、ひじは'走る'際は屈曲を維持されている。垂直に向いた首や項部靱帯の存在は'走る'際の頭の安定性み寄与している。
熱制御:'走る'際の熱を発散させるために、人類では汗腺の発達、体毛の減少、細くて長い体型、脳内の静脈叢の発達、口呼吸の併用が見られる。
以上のようなことから著者は、'持久走'の発達こそが人類の進化をもたらしたと推測しています。そう考えると人間は'走る'ことで人間足り得ると言う事が言うことができます。
また、以下のような考察も成り立ちます。
天変地異等の環境の激変に適応すべく、種は進化を遂げてきており、適応でない種は絶滅する運命にあります。適者生存です。
「長距離走と人類の進化」の文献に拠れば、人類は長距離を移動するに当たってウォーキングとランの2種類の方法を進化させてきました。何故ウォーキングのみでなく、ランが必要かとの疑問点に関し、著者らは人類の進化は大脳の発達と密接に結びついており、長距離走が狩猟・腐肉などによる肉食を可能にし、脂肪と蛋白に富んだ食物の摂取が特殊な人類の形態形成(大きな肉体・小さな胃腸、大きな脳、小さな歯)を可能にした、と推論しています。
つまり、長距離走の獲得による食生活の変化が大脳の発達を促したことを示唆している訳です。長距離走には、人類という種の起源にまで辿れるほどの歴史があり、人類の形態形成上、重要な意義を有していることになります。
後日、ランニング「長距離走」の意義に関して種々の観点から考察を加えてみようと思います。

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テーマ : フィットネス・トレーニング
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