梅芸メインホールミュージカル「MITSUKO~愛は国境を越えて~」観劇

昨日は仕事を終えてから、電車で久しぶりに梅田に向かいました。梅田芸術劇場メインホールで上演されている、ミュージカル「MITSUKO~愛は国境を越えて~」の観劇のためです。
私はこの公演の観劇を以前より楽しみにしていました。それは、以下のような理由からです。
1)主演女優が宝塚歌劇団在籍時代から密かに(?)応援していた、とうこさん(安蘭けいさん)です。また、演出家は宝塚の世界に留まらず数々の名作ミュージカルを世に送り出しているイケコ氏(小池修一郎先生)です。
2)音楽担当がフランク・ワイルドホーン氏であり、私はこの方が手がけた宝塚歌劇団の作品は、当時の宙組トップたかはなコンビの退団公演となった‘Never Say Goodbye’と星組大劇公演「THE SCARLET PIMPERNEL」の2作とも観ていて、その素晴らしい音楽に魅了されていました。特に後者はとうこさんが主演で、ちえさんが2番手を務めた名作で、私の最も好きなミュージカルの1つになっています。
3)ハインリッヒ役を演じたマテ・カマラスさんは、以前あさこさん主演の「エリザベート」の観劇レポの際にも記しましたが、私が6度観劇した「エリザベート」の中で、最も完成度の高いと感じている「ウィーン版エリザベート」でトート役を演じていました。ロック歌手でもある彼の美声と雰囲気に魅せられてしまった私は、ずんこさんと武田真治さんとのライブ「マテ・カマラス×姿月あさと×武田真治 SUPER LIVE」も聴きに行ったくらいです。
席は1階4列目ほぼ中央の良席で、演者の素晴らしい演技・歌以外にオーケストラの演奏も近くから楽しむことができました。
観劇の感想ですが、本当に素晴らしい舞台でした。ワイルドホーン氏はパンフレットの中で、光子の人生・物語は「Bigger than life」であると語っています。正に「事実は小説より奇なり」と呼べる波瀾万丈かつ、スケールの大きい物語の展開に圧倒されました。
以前から私の観劇レポは独断と偏見だらけですが、今回もまた長文になってしまいました。
(注:ここからはかなり内容を具体的に紹介しますので、ネタばれを嫌がる方は、私の下手な解説とは言え、読まないことをお勧めします。)

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当時の日本人を含めた東洋人は、欧米の白人からは、明らかな人種差別・偏見の対象と見なされていたと考えられます。それは、オペラの名作「蝶々夫人」の悲劇的な結末をみても明らかであるし、近年の作品では「ミス・サイゴン」の結末も同様です。
ところが、ハインリッヒ・クーデンホルフ=カレルギー伯爵は、過去に本国で苦い恋愛経験を経てきていることもあって真剣に光子を愛し、伯爵夫人として相応しい人物にするために語学から歴史・経済・法律に至るまで全面に亘って光子に教育を施します。光子もそれに答えて不断の努力を重ね、心筋梗塞で若くして夫を亡くしてからは、偏見と差別に打ち勝って7人の子供を異国の地で立派に育てあげます。
この作品では幾つかの重要なテーマがあります。1つは「因果応報」です。親の反対を押し切って恋愛・国際結婚に踏み切った(現実には父親に「売られた花嫁」である、とシュミット村木氏は語っていますが)光子は、自慢の息子のリヒャルトが、年上で子持ちのユダヤ人女優イダと結婚して自宅を飛び出して行くという過酷な報いを受けます。また明治の女として厳しい躾の下に育った光子は、伯爵夫人として厳格な教育を施そうとしますが、子供達に受け入れてはもらえず、オルガ以外は自立して自分の許を去っていってしまい、孤独な晩年を送ることとなります。
2つめは「国際化」です。この舞台のテーマソングにもなっているのは「愛は国境を超えて」で国籍に囚われない、恋愛・結婚を扱っていますが、「EUの父」として名高いリヒャルトの著作「汎ヨーロッパ主義」は政治・経済面でも国境を超えた一体化を訴え、後のEU実現の礎を築きました。
3つめは、もう一つのテーマソング「後ろを振り向かずに」です。異国の地で未亡人の身となりながら、日本人としての誇りを失わずに7人の子供を育て上げた、その気高い精神と気迫とには目を見開かされるものがあります。この光子の姿勢が東日本大震災で打ちひしがれた日本人へのメッセージにもなっています。
物語は、光子から勘当されていた次男のリヒャルトがニューヨークで汎ヨーロッパに関する講演をしていた会場の許に、日本人学生である百合子が訪れるところから始まります。光子の死を百合子からの手紙で知らされたリヒャルトが、百合子に母との思い出を語っていきます。光子が夫亡き後、家族と共に都会のウィーンに向かうまでが第1幕です。第2幕ではリヒャルトの恋愛や政治活動も話題の中心となっていき、最後に孤独な晩年の光子の姿が描かれます。
イケコ氏の演出の特徴として、多くの愛がここでは描かれています。光子とハインリッヒとの出会いから信頼し合った深い夫婦愛 。一度は勘当せざるを得なかった両親の光子への深い親子愛。ハインリッヒと光子の子供達に向ける深い愛情。恋人であるイダに対する嫉妬までみせる光子のリヒャルトへの執着。数々の苦難を乗り越えて行くリヒャルトとイダの人種差別を超えた深い愛。戦争に巻き込まれて迷走しつつある百合子と婚約者の日系米国軍人との愛等がメインとして描かれています。
この作品においては、他にもユダヤ人に対する差別と闘う、ハインリッヒの深い人類愛や汎ヨーロッパを提唱したリヒャルトの国境を超えた共同体形成への希求が描かれています。これらの様々な愛が美しい音楽を通じて、ときにはデュエットソングの形式で展開されていく手法は見事だと思います。
ただ(これはイケコ氏の演出ではよくあることなのですが)ナチスの鉤十字(ハーケンクロイツ)が強調されるシーンが見受けられるのは、舞台上であるとはいえ、好ましいものではないと感じました。
主演のとうこさんの演技・歌は本当に素晴らしいものでした。 ハインリッヒと出会った頃の娘時代・異国の地で周囲の偏見と闘う伯爵夫人・美貌で舞踏会の注目を集める未亡人・子供達に厳格な教育を施す母親・孤独な晩年に至るまでの年齢変化をうまく演じていました。
歌では、夫のハイリッヒの死後に覚悟を決めて歌う「後ろを振り向かずに」や、リヒャルトとイダの愛に嫉妬して歌う、「魔女め!」や晩生の孤独を切々と歌い上げる「私の人生は何だったの?」の熱唱に深い感動を覚えました。
とうこさんは女優としてさらに一皮むけたような気がします。どんな役柄でもツボを心得て演じ分けるだけでなく、内面から迸り出る美しさも感じられました。
私は昔から、とうこさんが演じる日本人像(「花吹雪恋吹雪」の石川五右衛門や「巌流」の佐々木小次郎」が特に好きだっただけに、明治生まれの気骨ある凛々しき日本人女性像「MITSUKO」を演じた今回の作品は、とうこさんの代表作になるだろうと思われます。
ハインリッヒを演じたマテさんは、「ウィーン版エリザベート」のときと違って日本語で演じています。台詞や歌詞を覚えるのはかなり大変だったと思われますが、それだけにリアル感が増しました。野獣のような格好に見えたエリザの時のトート役と違い、今回では伯爵役が板についていました。とうこさんとのデュエットも聞きごたえがありました。
他には、青年リヒャルトを演じた辛源さんの美貌や女優のリダを演じたAKANE LIVさんの歌唱力が印象に残りました。また光子の母親役を演じたはまこさん(未来優希さん)の演技・歌も印象的でした。
この作品では、観劇後もテーマソング「後ろを振り向かずに」の余韻がいつまでも残りました。これから日本は、この作品で描かれていた時代と同様の苦難の時代を迎えつつありますが、常に前向きの姿勢を貫いていきたいものです。
日頃から継続的に運動をして身体を鍛え、プラセンタも週3回定期的に注射して健康を維持している私にとって、時折楽しむ観劇は「心のアンチエイジング」になっております。これからも作品を選んで観劇をしていくつもりです。