「失敗の本質」から見る、危機的状況に対する日本の組織の対応の拙さ

「失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) 」では、大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗と捕え直し、これを現代の組織一般にとっての教訓あるいは反面教師として活用することを狙って執筆されています。
例えば、かの日本海軍が連戦連勝を続けてきた太平洋の戦局において致命的打撃を受けた「ミッドウェー海戦」において、以下のような大本営発表がなされたことが紹介されています。
<以下引用>
東太平洋全海域に作戦中の帝国海軍部隊は六月四日アリーシャン列島の敵拠点ダッチハーバー並に同列島一帯を急襲し
(以下略)
同方面に増援中の米国艦隊を捕捉猛攻を加え敵海上及航空兵力並に重要軍事施設に甚大なる損害を与えたり。
<引用終了>
現実には大型正規空母四隻を失うという甚大な損害を受けたにも拘らず、その事実を伏せて戦勝報告としています。
この本を読むと、危機的状況に対する組織上層部の対応が、米国軍に比して日本軍では極めて拙かったことが的確に分析・解説され、対応策が紹介されています。
特に私が参考になった内容を下記に列挙してみようと思います。
<以下主として引用>
1)戦略上の失敗要因分析
あいまいな戦略目的
長期的な展望を欠いた短期志向の戦略展開(一面で攻撃重視、他方で防禦、情報、諜報に対する関心の低さ、兵力補充、補給・兵站の軽視)
随所で見られた兵力の逐次投入
急襲による短期決戦という一方的な楽観論
主観的で「帰納的」な戦略策定~空気の支配(科学的思考が、組織の思考のクセとして共有されるまでには至っていない。日本軍は精神力や駆け引き的運用の効果を過度に重視し、科学的検討に欠けるところが大である)
情報軽視という、主観的な戦略策定の特質
米軍の戦略展開プロセスは、まさに論理実証主義の展開
アメリカの作戦の特徴の一つは、たえず質と量のうえで安全性を確保したうえで攻勢に出た
狭くて進化のない戦略オプション
アンバランスな戦闘技術体系
2)組織上の失敗要因分析
人的ネットワーク偏重の組織構造
属人的な組織の統合
学習を軽視した組織
3)自己革新組織の原則と日本軍の失敗
組織が継続的に環境に適応していくためには、組織は主体的にその戦略・組織を環境の変化に適合するように変化させなければならない。主体的に進化する能力のある組織が自己革新組織である。
自己革新組織のある組織は、以下に述べるような条件を満たす必要がある。
①不均衡の創造(組織は進化するためには、それ自体をたえず不均衡状態にしておく必要がある)
②自律性の確保
③創造性破壊による突出(進化は創造的破壊を伴う「自己超越」現象である)
④異端・偶然との共存(革新には異端・偶然の要素を取り入れる必要がある。参謀本部における最大の欠陥は、作戦課の独善性と閉鎖性にあったといわれる)
⑤知識の淘汰と蓄積
⑥統合的価値の共有
米軍は、目標と構造の主体的変革を、主としてエリートの自律性を柔軟性を確保するための機動的な指揮官の選別と、科学的合理主義に基づく組織的な学習を通じてダイナミックに行った。
日本軍には、静態的官僚制にダイナミズムをもたらすための、
1. エリートの柔軟な思考を確保できる人事教育システム
2. 分権的システム
3. 強力な統合システム
を欠いていた。
日本軍は、過去の戦略原型にはみごとに適応したが、環境が構造的に変化したときに、自らの戦略と組織を主体的に変革するための自己否定的学習ができなかった。
<引用終了>
以上のような大東亜戦争で日本軍が大敗して得られた教訓は、今日の政府の原発に対する対応を見ていても全く改善させていないように感じます。
ネット等を通じて、大本営発表以外の情報が得られる現代では、必要な情報をブログ、twitterその他から得て、自分と自分の家族、及び周囲の身は自分で守る必要性を痛感させられます。

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