妊孕性温存と根治性追求のジレンマ
それでも種々の治療法において、見解の相違が生じることは少なくありません。
特に産婦人科領域において、妊孕性温存を重視するか根治性を追求するかは、専門が不妊治療(reproduction)・周産期医療(perinatology)の医師と、婦人科腫瘍(oncology)の医師とでは意見の相違がみられるものです。
先日、以下のような記事が新聞に掲載されました。
妊娠中に子宮頸がん手術し無事出産 阪大病院、国内初
この手術は、広汎性子宮頚部摘出術(Trachelectomy)と呼ばれるもので、詳細な解剖理解と精密な手術手技を要求されます。
妊娠を希望される方や、妊娠の継続を希望される方には非常に有効な方法だと考えられます。ただこの手術を実施してからの予後に関する評価はまだ定まっていないように思われます。
それでもreproductionが専門の私としては、妊娠あるいは出産を希望される患者さんに対して、適応が満たされていれば、画一的に子宮全摘に踏み切るではなく、相談の上でできる限りの対応をさせて頂きたいと考えております。
私が神戸の病院に勤務している頃に、子宮癌の初期で発見された患者さんがおられます。子宮温存を希望されたために、治療と検診を反復しながら注意深く経過観察をしておりました。挙児希望でしたがなかなか妊娠に至らず、不妊治療の結果、体外受精を実施することになりました。
先日その患者さんが最後の胚盤胞移植で妊娠していることが判明しました。
残念なことに妊娠の経過を自分で追うことができません。それでも妊娠経過が良好で、無事に出産できることを祈っております。
「女は弱し、されど母は強し」との言葉があります。子供を望む、あるいは子供を守ろうとする女性の想いは強く、誰もその強い想いには抗えないものです。
データ(evidence)のみに捕われず、できるだけ患者さんの希望と意向に添えるような医療を実施することが(あくまでも適応を満たしていることが条件となりますが)、これからの時代の医療には必要になってくると思われます。

にほんブログ村

にほんブログ村

