私が現在勤務しているクリニックでの昨日の夜診ではうれしいことがありました。30代後半の不妊症で罹っている患者さんが3回目の体外受精(凍結胚移植)で妊娠されたことが判明したのです。
この患者さんの場合、今回は
SEET法(シート法)を併用しました。
SEET法は、神戸三宮で不妊治療で定評のある、
英ウィメンズクリニック(この業界は狭いもので、こちらの院長先生とは公私共に親しくさせて頂いております)に勤務されている、
後藤栄先生が開発された独自の治療法とされています。
高度生殖医療である体外受精において、顕微授精等の受精に至る技術や培養液の改善等では進歩が見られ、最近では精子の選別方法が高性能の顕微鏡を用いて確立されつつあります。
それでも妊娠における最も難題である、着床率を上げることは難しいものでした。
私は以前自分の
プロフィールのブログで紹介しましたが、受精卵の着床に必須である、LIF (leukaemia inhibitory factor)というサイトカインの子宮内膜・胎盤での発現・機能に関して研究していました。(
Expression of leukemia inhibitory factor in human endometrium and placenta. Biology of Reproduction April 1, 1994 vol. 50 no. 4 882-887)
その原典となる文献は
こちらとなります。「Blastocyst implantation depends on maternal expression of leukaemia inhibitory factor COLIN L. STEWART*, PETR KASPAR†, LISA J. BRUNET*, HARSHIDA BHATT*, INDER GADI‡, FRANK KÖNTGEN§ & SUSAN J. ABBONDANZO* Nature 359, 76 - 79 (03 September 1992)」
受精卵の着床に種々のサイトカインが関与していることが証明されても、それを人間特に不妊の患者さんに投与する訳にはいきません。当然のことながら、トランスジェニックマウスを用いた動物実験のようなことはできず、臨床応用は現実的には不可能です。
受精卵と着床する子宮内膜との間には相互作用があることが想定されます。後藤先生が考えだされた方法は、培養液内で受精に至った受精卵自体が何らかの着床に必須或は有利な物質を産生していることを想定し、その物質を含んでいると考えられる、受精卵の培養に用いた培養液を胚移植数日前に子宮内に注入するというものです。
このアイデアは非常に素晴らしいものです。受精卵の培養自体に用いた培養液を利用するため、危険性が全くありません。受精卵の立場で考えてみると、自分を育ててくれた`母なる海’というイメージの培養液に触れることができて、懐かしい想いを抱けるのかもしれません。
研究の成果というのは、常にRandomized Controlled Trial(RCT)
ランダム化比較試験で有意差があれば、有効であると厳密には認定されるものです。その点は定かではありませんが、この方法で妊娠されるのであれば誰もが納得し、推奨したくなる方法だと思います。
臨床研究の成果には賛否両論があるのかもしれませんが、不妊治療では結果がすべてです。妊娠という結果が導かれれば、どの患者さんも喜ばれます。
私がずっと診ていた、この患者さんが妊娠されたことは非常に嬉しいことなのですが、私自身はもう1ヶ月足らずで退職(開業)してしまいます。そのため、この患者さんの妊娠経過に付き合って、最後の分娩まで立ち会うことはできません。そのことが非常に残念です。
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テーマ : 不妊治療
ジャンル : 結婚・家庭生活