現在勤務しているクリニックでは、主として妊婦さんの健診と分娩、不妊症の患者さんの治療を行っています。不妊症の患者さんだけを扱っているクリニックや、主としてお産を扱っている病医院と違い、高度生殖医療で妊娠された患者さんのお産まで見届けることができるのは、産婦人科医冥利に尽きるものです。
40歳代の不妊症の患者さんで、体外受精で妊娠された方が先日お産となりました。妊娠後期に重篤な疾患に罹ったため、満期に至る前の帝王切開での分娩となりました。
より重症であれば、地域の基幹病院に搬送となって分娩に至るところです。母体搬送せずに、自分の勤務しているクリニックでお産でき、かつその後の経過が順調なのは私にとっても凄く嬉しいことでした。
その患者さんの場合、年齢的に次の妊娠をどうするかというのは、リスクの問題も含めて難しいところです。本来なら私が引き続き、相談に乗って尽力したいところですが、残念ながら私は新規に別の場所で開業するためそれができません。
私が以前、大阪の北野病院とか神戸市立医療センター中央市民病院等の大病院に勤務していたころは、ひたすら手術・検査等の医療技術の向上を目指していたものです。
ただそれはあくまでもそれらの基幹病院が組織として、人的にも体制的にも医療機器等においても整っていたためです。医師一人だけではできることが限られてしまいます。
医療の診療内容として、一人で日帰り手術や検査をできる科と、大勢のスタッフで治療を行い、治療後の入院管理を要する科とでは規模も治療の程度も異なります。
組織の一員として腕を磨くことと、自分のできることを見極めてその中で最善を尽くすこととでは方向性が異なってしまいます。
基幹病院等で切磋琢磨して習得した技術を開業して行使できない医師は多いものです。それでも、自分のできる範囲内で自分の医師としての理想を実現していくことも医療ではないかと考えています。
ベビーブーム等があった昔は、一人でお産をとる産婦人科医が多く、その当時は「1に在宅、2に在宅、3、4がなくて5が体力(または在宅)」と言われていたものです。
それが周産期医療が進歩するにつれて、赤ちゃんが元気に生まれてくるのが当たり前のご時世となり、期待していた結果が得られなかったご家族からの訴訟等が増えたため、現在では複数の産婦人科医が揃わないとお産を扱えない時代になってしまいました。
それでもお産をとる産婦人科医が年々減ってきているため、お産を扱える病医院は減る一方です。
悲しい現実ですが、この悪循環に抗うことはできません。
私が開業したら、自分のできる精一杯のことをして、その地域の女性の方々の悩みに真摯に向かい合い、いつまでも健康でいられるように貢献していきたいと考えています。
にほんブログ村
にほんブログ村
テーマ : 婦人病
ジャンル : 心と身体