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お産の怖さ〜産後の子宮内反症

 私はクリニックでの診療以外に平日は週2回、休日は月に1〜2回お産を取り扱う病院で当直(産直)の仕事をしています。

 当直の際にお産を取り上げる件数はそれほど多くないのですが、先日久しぶりに怖い思いをしました。産後の子宮内反症です。

 子宮内反症は産後に子宮が翻転してしまう病気です。多量の出血でショックになることがあり、適切な処置あるいは手術に踏み切らないと命に関わることとなってしまいます。
 
 私は大病院に勤務している頃、これまでに2度この疾患に遭遇しております。
 1例目は近くの開業医の先生から搬送された症例で、開腹して子宮に切開を入れて整復を行いました。この症例は、以下のように症例報告として学会誌に掲載されております。

再発性産褥期子宮内反症とOcejo手術
Recurrent Inversion of the Puerperal Uterus Managed with the Ocejo Operation
日本産科婦人科學會雜誌 47(12), 1375-1377, 1995-12-01 小島他


 2例目は神戸市立医療センター中央市民病院に勤務していた頃で、やはり近くの開業医の先生から搬送された症例でした。その時は全身麻酔下に用手的に整復でき、開腹せずに済みました。

 今回は当直先で、自身の分娩の取り扱い時としては初めて遭遇しました。産後の患者さまの疼痛が著しく用手的整復が困難で、また産後の出血が多量だったため、通常の産後としては異例ですが静脈麻酔で患者さまの意識を朦朧とさせてから用手的に整復しました。

 出血多量でHbが4.0まで下降してしまい輸血を実施しましたが、内反症を繰り返して出血のコントロールが困難となったため、最終的には高次の医療センターに搬送となりました。

 この子宮内反症は癒着胎盤が原因となっていることが多いとされています。特に前置胎盤では癒着胎盤を合併する頻度が高く、母体死亡となって主治医の産婦人科医が逮捕され、7年前にマスコミで多く取り上げられた、「福島県立大野病院産科医逮捕事件」では、産科医療崩壊の危機に見舞われました。癒着胎盤が高度の場合には母体の生命が脅かされる場合があります。

 お産の時には、他にも胎盤早期剥離、羊水塞栓、子癇発作等の致死的な疾患が合併することがあります。稀ではありますが、絶えず最悪の事態を想定して適切に対処しないと母子双方の生命に関わるのです。

 改めてお産は怖いと思うと共に、救急に対応して下さる高次医療機関の医師達に感謝しました。患者さまが不幸な転帰を辿らないためにも、今後全国的な産科崩壊・医療崩壊に至らないことを祈るばかりです。
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「母と子の上田病院」内覧会

 昨日はクリニックでの診療を終えてから、いつも大変お世話になっている神戸市中央区の産科小児科病院「母と子の上田病院」の医療関係者向けの内覧会に参加しました。

 「母と子の上田病院」は、理事長先生が直々に書かれた病院の紹介記事に拠れば、昭和23年創立で今年64周年となります。初代院長先生の急逝や少子化の波、阪神大震災等の苦難を乗り越え、今年めでたくグランドオープンとなりました。

 私は以前こちらの病院で当直のお手伝いをしていたことがあります。ホームページの冒頭で記載されているように、以前から「従来の医療常識にとらわれない患者様中心の医療」を展開されています。去年病院の名称に「母と子の」と銘打ったように、妊婦様とお子様に対する配慮で溢れています。

 病院に車で着くと、まずは立派な立体駐車場に驚かされました。以前あちこちに点在していた駐車場と違い、雨が降っても濡れずに院内に入ることができます。

 1階の小児科外来から7階のガーデンホールまで、若先生に案内して頂きました。産婦人科・小児科関係の多くの先生方が来られていて、私はいつもお世話になっている産婦人科の先生方と一緒に院内の見学をしました。

 院内はスタイリッシュなセンスに満ち溢れ、細部に至るまで患者様に対する配慮が感じられます。またセキュリティ管理にも苦心が凝らされていて、最新設備でありながら心のこもった病院の素晴らしさに感嘆させられました。

 予備も含めて、分娩用のLDRルーム(L=Labor(陣痛)、D=Delivery(分娩)、R=Recovery(回復)を同一の部屋で行うシステム )は5つもあります。これなら多くの妊婦さんが寛いで出産することができます。

 ヒーリングルームやガーデンホールも見事で、「都会のオアシス」にあっては身も心も癒されるような気がします。

 院内は生花で溢れていました。私のクリニック開院前の内覧会の際には、写真のような立派なお花を届けていただいていたので、私も今回、ささやかながら「二楽園」さんに頼んでお花を届けてもらいました。

 少子化の時代を迎えて久しい今日ですが、医療環境の過酷さから出産を取り扱う産婦人科医が激減し、各地で分娩施設の閉鎖による産科医療崩壊が発生し、「出産難民」という言葉も定着してしまいました。

 私のクリニックがある東灘区でも、この春に2つの病医院が分娩の取り扱いを停止します。このような時代に、三代目にあたる一族の若先生達が病院に新しい風を吹き込み、伝統を維持しながら世代交代できるのは羨ましくもあり、素晴らしいことだと感じます。

 若先生のお二人はそれぞれ、ゴルフとマラソンが趣味のようです。これは私と一緒なので(苦笑)、公私ともにこれからもお付き合いさせて頂きたいと考えております。

 院内の素敵な雰囲気は、写真を撮ってこのブログで紹介しようかと考えていたのですが、私の場合、撮影技術が余りにも拙劣です(滝汗)。病院にご迷惑を掛けては申し訳ないので、今回は控えさせて頂きました。

 神戸で出産をご希望の方には、是非お勧めしたい病院です。


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テーマ : マタニティライフ
ジャンル : 結婚・家庭生活

関西での妊娠・出産のお勧め

 今日、当クリニックに来られた患者さんは、嬉しいことに私のこのブログを熱心にご覧になっているとのことでした。

 ただその方は、もう一人お子さんを望まれているのですが、福島第一原発による国内の放射能被曝に関して不安を抱かれているようでした。私が放射能被曝に関して提示しているデータもよくご存知でした。

 私は、妊産婦やこれから妊娠を考えている女性・不妊でお悩みの患者さんといつも接している産婦人科医の立場から、政府のこれまでの対応を批判して、政府の提供してきた情報に懐疑の眼差しを向けてきました。実際のところ、政府や東京電力が放射能に関するデータをかなり隠蔽・改竄してきたことが明らかになってきています。福島第一原子力発電所のモニタリング状況に関しては、以下のデータが後から出てきた正式なデータです。

 福島第一原子力発電所のモニタリング状況

 このデータは、先日ブログで報告した、関東の放射能被曝の現状と辻褄が合う気がします。関東地方でも地域によっては、かなりの汚染が懸念されます。

 現実問題として、以下のブログで示されているように、関東では鼻血・下痢・咽頭痛の症状を訴える患者さんが急増しているようです。ただ黄砂の影響とも考えられ、これらの報告だけで放射能被曝の直接の影響と断定することはできません。

 警告:東京など首都圏で低線量被曝の症状が子どもたちにおきているという情報

 ただ、これはあくまでも関東でのデータ及び症状です。関西では今のところそのような報告は聞かれません。

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 この図で示しましたように、神戸なら福島よりおよそ600km離れています。全く影響がないとは断定できませんが、現時点では(福井県敦賀市にある、高速増殖炉もんじゅが爆発しないという前提でのお話となりますが...)関西での妊娠・分娩に関しては全く問題はないと思われます。

 ただし、胎児にとって怖いのは内部被曝です。あまりにも映像が強烈なのでここでオープンにはしませんが、チェルノブイリで出生した奇形児やイラクでの劣化ウラン弾による奇形児の映像は見るに耐えないものがあります。

 今日来られた患者さんには、食事や摂取する水分に最大限の注意を払い、東からの風が吹いてくるときには外出を控えるようにアドバイスをしておきました。

 正直言って、もしも関西で子作りが推奨できないとなると全国どこでも駄目になると思います。日頃の生活や食事に注意を払う必要はありますが、関西にお住まいの方は積極的に子作りに励んで欲しいと思います。

 当クリニックでは分娩を扱ってはいませんが、ベテランの助産師も勤務しております。妊婦健診をご希望の患者さんや、不妊でお悩みの患者さんは是非当クリニックにお越し下さい。

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テーマ : 妊娠・出産
ジャンル : 結婚・家庭生活

東日本大震災で被災された妊婦さんの健診

 昨日私が非常勤医として勤務している病院の外来(妊婦健診)で、東日本大震災で被災された妊婦さんが受診されました。

 地元を離れて神戸市内の公営住宅にお住まいで、私が外来を担当している病院で分娩をする予定にしていました。
 
 ところが、昨日分娩の予約を解除されました。神戸には身寄りの方がおられないため、関東に引っ越して分娩するとのことです。

 現在関東地方でも分娩を取り扱っている施設は激減しています。分娩を扱っている病医院でも、スタッフ不足から分娩件数を制限しているところが多いものです。

 東日本大震災で被災された妊婦さんに配慮して、妊婦健診と分娩とを取り扱ってくれるように全国の産婦人科病医院に通知が届いています。それでも分娩を増やす件数は個々の病医院で限りがあります。

 まだどちらで分娩するかを決める時間的余裕がなく、引っ越しをされていきますが、紹介状を携えて受診した病医院の産婦人科で分娩ができることを祈るばかりです。


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テーマ : 出産のときの事
ジャンル : 結婚・家庭生活

妊婦様向けパンフレット作成

 当クリニックでは分娩を取り扱っていません。それでもうちのクリニックには妊娠についても造詣が深いスタッフが揃っております。助産師のMさんや主任のNさんが中心となって妊婦様向けのパンフレットを作成しました。

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 表紙です。

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 妊娠経過の説明の図と表です。

 妊娠中の生活上の注意や栄養、トラブル、妊婦体操等についてわかりやすく解説してあります。

 当クリニックでは婦人科メインのクリニックにしては珍しく、産後の授乳相談や乳房マッサージにも対応できます。

 妊娠中あるいは産後のトラブルにお悩みの方は、気軽にご相談下さい。


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テーマ : 妊娠・出産
ジャンル : 結婚・家庭生活

勤務先での最後の当直&外来

 昨日は日曜日でしたが、勤務先での最後の当直でした。

 深夜帯では2つの分娩がありましたが、全くの安産でした。

 今日は朝から最後の外来です。

 神戸や大阪の病院に勤務していたころから診ていて、体外受精でようやく妊娠された患者さんや、不妊治療で妊娠された患者さん、現在も不妊治療中の患者さん、帝王切開の予定となっている患者さんたちのことがとても気掛かりです。今後の妊娠経過が順調で、無事に出産されることをお祈りしつつ、引き継いで健診を診療をして頂く先生方に申し送りをしておきます。

 最後の外来を終えて、職員の方々にお別れの挨拶を済ませて、職場を立ち去りました。

 寂しい気持ちに襲われるとともに、新規開院に向けて期待と不安感が入り交じった複雑な心境です。
 
 内装・広告・人事面等で精力的に活動してくれている、エグゼクティブプロデューサーの伊藤春絵氏が、多忙な仕事の合間を縫って明日再び神戸に来られます。

 開院が迫り、いよいよ最後の詰めの調整の時期ですが、まだまだ懸案がたくさんあります。

 年末で慌ただしい日々が続きますが、地域の皆様に愛されるクリニック作りを目指して頑張っていきたいところです。

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テーマ : 日記
ジャンル : 日記

最後の定期の手術~帝王切開術~で抱いた感想

 今日は、自分の現在勤務しているクリニックで、予定の反復帝王切開術がありました。

 今月末で退職してお産を取らないクリニックを開院する私にとって、最後の定期の手術となります。

 なぜか、昔の小学校の国語の教科書にあった、「最後の授業」を思い出したりして、感懐に耽ってしまいました。

 ふと今までにお産をどれだけ取り上げたか数えてみました。

 詳細な数字は定かではありませんが、約23年間の産婦人科医としての勤務医生活で2500~3000件のお産を取り上げています。私の場合は基幹病院に勤めていた期間が長いので、帝王切開率を20%と計算すると500件以上は帝王切開術を主治医として執刀したことになります。

 この数が多いかどうかは分かりません。普通に産婦人科医療を続けた医師としては標準的な数ではないかと思っています。

 過去に実施した帝王切開術を振り返ってみると、産科において最も怖い疾患の一つである、胎盤早期剥離での全身麻酔下の手術や、双子などの多胎の手術、妊娠25週でNICU(未熟児センター)の担当医の立ち会いの下での手術等の様々な状況が思い起こされます。

 産婦人科医にとってお産はめでたいことではありますが、とても怖いものでもあります。

 社会問題となった、「福島県立大野病院産科医逮捕事件」では、癒着胎盤と前置胎盤を合併した妊婦さんの帝王切開術の執刀をした医師が、手術後に母体死亡となったために現行犯として逮捕されてしまいました。

 大変難しい症例に立ち向かった医師が逮捕される、という無慈悲で過酷な現実に遭遇して、多くの産科医が臨床の第一線から立ち去ってしまいました。後の判決で担当医の無実が確定し、担当医は職場に復帰されましたが、この事件が医療の世界に与えた影響は今でも大きいものです。(この問題点の詳細に関しては、この先生のブログで詳細に解説されています)

 このような時代になっても、真摯にお産に取り組んでおられる産科医の先生方は立派だと思います。
 
 私もこれからどこかの非常勤医師として、緊急の帝王切開術に立ち会うことはあると思いますが、定期で自分が主治医として執刀する機会は殆どなくなると思われます。

 肩の荷がおりるとともに、一抹の寂しさを覚えるのは事実です。


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テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

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小島謙二 (ペンネーム:晴走雨読)

Author:小島謙二 (ペンネーム:晴走雨読)
神戸市東灘区在住の産婦人科開業医。昭和38年生まれ。昭和63年京大医学部卒。医学博士。水瓶座。血液型はO型。
財団法人田附興風会医学研究所北野病院・神戸市立医療センター中央市民病院等の勤務を経て、2011年2月7日に神戸市阪急御影駅徒歩7分の御影ドクターズビレッジ内に、こじまレディースクリニックを開院しました。

産婦人科全般を扱ってきておりますが、専門は生殖内分泌・不妊・腹腔鏡下手術です。詳細は当ブログのプロフィールの欄をご覧下さい。

趣味はマラソン・観劇・ゴルフ・読書・筋トレ・サウナ&温泉・マッサージと多彩です。

観劇の世界では、以前は宝塚歌劇団がメインでしたが、劇団四季からストレートプレイまで幅広く対象にしております。

マラソンのベストタイム
フル:3時間22分45秒(平成18年篠山)
ハーフ:1時間28分49秒(平成19年大阪市民ハーフ)
5km:19分16秒(平成20年尼崎記録会)

ゴルフ:ホームコース~六甲国際ゴルフ倶楽部 オフィシャルHC25

女性の様々な悩みに真摯に向き合い、女性の健康維持とQOL(Quality of Life)の向上~アンチエイジングに努めたいと考えております。

どうか宜しくお願い申し上げます。

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